報告!コミュニケーションの力をのばす「哲学対話」ってなんだろう?を開催しました。

2015年08月25日

 8月20日、コミュニケションの力をのばす 「哲学対話」ってなんだろう? 
を開催しました。

開催案内はこちらをご覧ください。

 たかしま市民協働交流センターでは、地域の課題解決や地域の資源を活かすために、地域の人々が知恵を出し合い、力を出し合って対応していく「たかしま・未来・円卓会議」を開催しています。

これまでの「たかしま・未来・円卓会議」の報告はこちらでご覧ください。

 円卓会議を進めるために大切なことは、参加者同士がよいコミュニケーションができることだと思うのですが、いつも難しさを感じます。
 年齢、性別、職業などを越えて、若い人も、女性も、男性も、高齢の方も、誰もが、地域のことを考えて、対話して、地域のこれからのために知恵を出し合いたいと思っています。
 よいコミュニケーションのために、子どもも大人も、対等に対話ができる「哲学対話」を各地で実施されている梶谷真司さんに、対話の場づくりについてお聞きすることになりました。

 梶谷真司さんは、東京大学教授で哲学を専門とされています。
 哲学対話の取り組みをブログでも書いておられ、子どもや中学生とも哲学対話を実践されてるようです。
 でも、肩書きを聞いただけで、難しそうな話なのでは?というイメージが膨らみます。
 しかし、「哲学対話を一度体験すると、きっと対話のイメージが変わると思うので、どうですか」と円卓会議の運営メンバーである熊澤さん(総合地球環境学研究所)と木村さん(琵琶湖環境科学研究センター)のお勧めで、何かヒントをいただければと、朽木へ来ていただくことになりました。

 「哲学対話」という言葉。なんだか難しそうと感じませんか?
 「朽木のみんなと円卓会議」を一緒に進めている朽木住民福祉協議会のみなさんもお誘いするために、何か分かりやすい資料ありませんか?と梶谷さんご相談したところ、
『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』(河野哲也著 河出書房)をご紹介いただき、市内の図書館で借りてみました。
 
 自分の考えていること、感じていることを言葉にすることの大切さ、と同時に、他人の考えていることを聞くことの大切さが書かれていました。子どもは大人に比べると世界も小さく、経験も少ないのですが、でも生きている中で経験してきたことから、たくさん考えています。それを言葉にしていくことで、自分が考え、感じていることを掘り下げていくことが出来るそうです。そして、他の人の異なる考えにも耳を傾ける姿勢を学び、どんな人とでも対等に対話できる力を育むことができるということです。
 これは、子どもだけでなく、大人にとっても大切な力だと感じました。ついつい経験豊かな人の意見に対し自分の思考を止めてしまったり、ついつい若い人に意見を押し付けたり。それでは、誰もが一緒に地域について話す場にはならないですよね。
 年齢、性別、職業に関係なく、その人の考えていることは独自のもので、お互いに言葉にすることで、異なる視点や考えがあることを知ってこそ、対話を深めていける気がします。

 ということで、8月20日(木)の夜、朽木ふれあいセンターにて、「哲学対話」初体験でした。
報告!コミュニケーションの力をのばす「哲学対話」ってなんだろう?を開催しました。
 
 「哲学」とは何か?
 「哲学」や「対話」について解説していただきました。

 梶谷さんは、マンションのコミュニティ、幼稚園、農村、婚活イベントなど、さまざまな場で「哲学対話」をしておられるそうです。
 この週末にも幼稚園の子どもたちと哲学対話をするそうです。
 エッセイの書き方を教える高校生のキャンプもしておられ、そこで哲学って何か?を説明する時に伝えておられるのは、「問い、考え、語り、聞く」ことだそうです。
 「問う」ことが人の「考える」出発点になります。「問う」ことから思考が始まり、そして考えをきちんと言葉にし、語り、聞くということが哲学なんですね。
 
 中学生には、もっと簡単に「分からないことを増やすこと」と伝えるそうです。
 学校は、分からないことや知らないことを学んで、覚えて、分からないことや知らないことを減らしていくトコロですよね。
 学校では、先生が教えてくれることに対して、「分からない」と言い難くないですか? また、ちょっと変わった質問も聞き難くないですか? 言いたいこと、疑問などを言い難くなり、言いたいことを言わなくなってしまう。正しいこと、いいこと、先生が期待していることを言うようになってしまってませんか。自由に自分の中にある問い、考え、を話せる場は学校にはなかなか無いようです。

 問題に気づく
 私たちの問題は、実は複雑で多様です。総合的に自分の人生を見ることができるのは、自分しかなく、自分の人生の専門家は自分しかいないと言えます。
 でも、当事者でも本当に何が問題か分からないことも多いですよね。地域のことも、本当に何が問題か分からないことも多い。見えている問題が本当に問題かどうかも分からないということもある。
 改めて、いろんなことを考え直すこと、問うことが大切だということです。

 「対話」とは、一緒に考えるということ。
 ディベートや議論では、誰が正しいかという話になりますが、「哲学」では正しさはどうでもいいこと。
 誰かが発した何気ない言葉から触発されて、他の人から言葉が出てきたかもしれない。間違った意見、正しい意見ということは関係なく、みんなで考えて、言葉にして、そこから出てくる意見が大切。対話は、疑問を持ったり、理解を深めたりするためのものなのですね。

 例えば、集団の中で、今さら聞けないことってありませんか? 当たり前に知っている、分かっているということって、聞き難いですよね。
 でも、あらためて問いかけてみると、実はみんな分かってなかったり、違う理解をしていることもある。改めて、疑問を持ち、問いかける、考えることで、理解が深まります。
 梶谷さんは地域に関るときに、その地域のことを事前に調べないそうです。事前に調べてしまうと分かった気になってしまったり、地域の人も分かっているだろうと言葉にしてくれないこともある。本当は、言葉にしないと、基本的なことも分からないことも多いのに。
 当たり前と思っていることに対して、疑問を持ち、考え直すことが「哲学対話」だということです。
報告!コミュニケーションの力をのばす「哲学対話」ってなんだろう?を開催しました。

 「哲学対話」の方法は、こどもための哲学(Philosophy for Children : P4C)として実践されています。 
 そこで、知的安心感を大事にする。安心して話せるために、対話のルールがあります。
《対話のルール》
 ・何を言ってもいい
 ・他人の発言を笑ったり否定しない
 ・話している人のことに耳を傾ける
 ・話したくなければ話さなくてよい
 ・急がず、ゆっくり考える
 ・結論に至らなくてもよい
 ・分からなくなってもいい

「何を言ってもいい」という安心感、「何を言っても笑ったり、否定されない」安心感
 いつも強く発言する人、たくさん発言する人でも、本当に言いたいことを言っているかというと、そうでもなかったりする。期待されることを言っている場合もある。分からないと言えなかったりする。
 自分の言っていることって、つまらないんじゃないか、当たり前のことなんじゃないか、笑われるんじゃないか、とか思って言えないこともある。話せなくなるということは、考えなくなる。些細なことでも、考えたことを言葉にすることが大切。「何をいってもいい」、「何を言っても笑ったり、否定されない」という安心感が大切です。

 「話している人に耳を傾ける」こと、普段からしているようで、実は日常の会話では人の話を聞き流していること多くないですか? 思い出してみると、会話の後で、あれっ?何を話してたかな? ということって結構ある。人の話に耳を傾けて聞くことって、本当はとても疲れます。「哲学対話」をとおして、本当に耳を傾けて聞くことを体験し、理解していきます。

「話したくなければ、話さなくていい」
 4~5人のグループでワークショップをする場合、必ず発言が求められたりしますが、話題によっては話したくないこともあるし、今は話したくないという時もある。 「哲学対話」では15人~20人程度で対話します。「話したくなければ話さなくてもよい」いう安心感は大切です。話したくないという権利が保障されていることが大切です。「話さなくては」というプレッシャーの中で発言しなくてはいけないのは、本当に自由に話せないと思うのです。

 「分からなくなっていい」ということも大切。「哲学対話」の後、いろんな発言、意見を聞き、ちょっと混乱することもある。「分けが分からなくなりました」という感想もあります。分かっていると思っていたことが「分からなくなる」というのは、理解が深まったということであり、「分からなくなって、よかったですね」というそうです。

 対話は、多様な人たちですることがいいそうです。
 同じ年齢、集団の人たちでは、考え方や価値感が似ていて、異なる問いや考えが出しにくくなります。当たり前のことに疑問を持ち難いのです。むしろ、年齢、職業、環境が異なる人で対話することで、前提となっていることに「なんで?」と疑問が出てくるし、気付きがたくさんあります。そこに、子どもの存在はとても大切で、小学生や幼稚園児が大人の中で当たり前になっている前提に「なんで?」と問いかけたり、子ども独自の発想で意見を出してくれたりします。
 世代が違う人と対話することが大切なんですね。
 若い人と年配の人って、上手く話せる気がしないと思われてませんか。
 年配の人は、若い人の意見は理解できないと思っていたり、若い人は年配の人の意見を説教だと思っていたり・・・。でも、実際に中学生から70歳代の人たちとの対話をすると、お互いにとてもよく聞き、よく話をされるそうです。違うことがおもしろいんですね、お互い。

 参加した人が考えたい問題を考える
 対話では、具体的な経験や事例に即して考え、誰かが言ったことや本に書いてあることを前提にして話をしないことが大切だそうです。自分の経験から話をすること。自分で思うことから話しをすること。子どもでも、自分が経験したことから思ったこと、考えたことを発言し、それは知識に関係のない自分の言葉なんですね。

 特に、子どもが対話の中にいると良いことは、難しい言葉を使えないことだそうです。
 小学校低学年の子に伝わるように話そうとすると、大人が普段使っている言葉を考え直して、子どもの理解できる言葉を探します。あらためて、言葉の意味を考えたり、自分の言葉を考え直す機会になります。
 
 みんなで考えることで、自分の考えていることに気付いたり、こだわりに気付いたりします。みんなの意見によって、理解が深まったり、広がったりします。
 結論は一つではなく、それぞれの違いを知ることができる。結論に至らなくてもいい。
 問いや考えや気持ちを共有し、相手への敬意を持つ。相手に認めてもらったら、相手を認めたくなり、尊重し合える関係性につながります。

 「哲学対話」について質問
<質問>対話では、自分の経験から考えるというけれど、子どもはまだ経験が少ないので、発言できないのでは?
<梶谷さん>子どもには子どもの苦労や体験があり、その経験から発言していきます。
 子どもの発言から、考えていることが分かったり、そういうことに悩んでいるんだと、気付いたりしたます。
 大人は考えなくなる積み重ねが多く、考えなくなっていることに対して、子どもの発言や問いによって、大人が気付く機会にもなります。
 経験の浅い深いが対話に対する貢献度ではないと思います。
 
 哲学対話では日常の力関係を引きずらないように、お互いに良く知っている参加者の場合、本名で呼び合わず、ニックネームや野菜の名前とかで呼び合ってもらうこともあります。ちょっと普段と違う呼び方にするだけで、対等になり話しやすくなります。

<質問>哲学対話という、ワークショップを全国でしているのですか?
<梶谷さん>ワークショップとはちょっと違うと思っています。持っていく物はこのボール(毛糸の玉)くらいですね。
報告!コミュニケーションの力をのばす「哲学対話」ってなんだろう?を開催しました。(コミュニティボール:Pilosophy for Childrenより)
ほとんど準備はしないで実施しています。誰でも、どこでも、できるものでありたいので、道具もあまり使いません。付箋もあまり使いません。ホワイトボードがあれば、質問などを書いたりしますが、無ければコピー用紙を使ったりします。
 
<質問>記録が残らない中で、地域の課題についてなど積み上げでいくような対話はできるのですか?
<梶谷さん>哲学対話では、参加者の対等な関係性が作られることが大事なので、人間関係ができれば対話することができるようになり、地域のことを話せるようになると思います。みんなが話して、みんなで考えることが全て。対話の場がおもしろくなるのも、つまらないものになるのも、参加者の責任だと言ってます。対話をよいものにしたいなら、よく考えて、よく聞いて、話すことです。
 それと、時間が来たらすぐ終わります。満足するまで話すと残らないんです。もっと考えたかった、という気持ちで終わるほうが、その後も考えるし、自分との対話が始まると思っています。不満が残るくらいの方がいいと思っています。
 1人で考えるのではなく、みんなで考えて、みんなで責任をとるということが大事だと思います。「対話」の良さは、自由と責任を負えること。人間は自分が考えたことにしか責任を負えないですよね。
 まあ、学校にしても、会社にしても、自分が考えたことや決めたことではないことで、責任を取らされることが多いですけどね。

<質問>対話の先にどういうゴールを設定して、テーマを決めますか?
<梶谷さん>テーマは設定しますが、ゴールはあまり設定しないですね。
 テーマは、「問いをつくろう」という時間を持ったりします。参加者から「問い」を出し合ってもらい、「問い」を関連付けて、練り上げて、より一般的な問いにしていきます。みんな何に関心を持っているかということを投票して決めたり、グループで選んでもらって、対話するテーマを決めたりします。
 対話では、結論に至るよりも、お互いを認め合えたり、理解し合えたりすることが大事だと思っているので、ゴールは設定しません。
 地域課題についてのテーマなどは、対等をとおして、話し合える人間関係ができれば、結論を求めるような話し合いもできるようになると思います。

 さて後半、いよいよ「哲学対話」を体験しました。
 机は片付けて、椅子だけで輪になって座ります。机は聞く姿勢になってしまい、話さなくなってしまうそうです。
報告!コミュニケーションの力をのばす「哲学対話」ってなんだろう?を開催しました。

自己紹介
 「名前」と「1日の中で好きな時間、なぜその時間が好きなのか」を話しました。

質問ゲーム(20分くらいかかるので、この日は時間が無くて紹介だけしていただきました)
 4人くらいで、1人に対して質問をし続けます。質問に答えるのも大変ですが、質問し続けるのも大変で、質問ゲームの後は、思考が質問すること、疑問を持つことに慣れてきて、その後の対話が進みやすくなったりします。

哲学対話
 自分が幸せを感じる時間について、なぜその時間に幸せを感じるのかという理由と一緒に、話たい人から話していきました。
 コミュニティボールを持っている人が、ゆっくり話していきす。
 次に話したい人は手をあげます。話したいという予約ですね。ボールを持っている人は、次に話したい人へボールを渡します。
 誰も手を上げなくて、次にボールを渡す人がいない時は、無理に話す必要はないのです。沈黙もあっていいです。

 夜、ホッとしてビールを注ぐ瞬間に
 家族がいて、夜に家族がそれぞれ自分の部屋へ行き、自分の時間に向き合えるとき
 1日の終わりに、仕事やさまざまなストレスから開放された瞬間に
 話を聞いているうちに、「幸せ」って人によって違うし、「幸せ」ってなんだろうと思った
 など、いろいろ出てきます。

 それぞれの幸せな時間と理由を聞いていると、自分の中にも幸せについて思いが出てきて、話したくなってきました。
 ウォーキングしているときに、健脚だった祖父を思い出す時があり、祖父の人生、その前の祖先からずーと宇宙までつながって、今ここに居るなと感じるときに、幸せなのか、生きてる感じがすること。

 大学生の頃の下宿生活でのことを思い出しました。一つの大きなお家に学生がごちゃっと30名くらい一緒に暮らしていると、いろいろ起こります。どうしてこんなに悩むのかな・・・、どうしてこんなにぶつかるのかな・・・と下宿生を思い浮かべたときに、「あ!みんな幸せになりたくて、悩んだり、ぶつかったりしてるのか!」と気づいたときがあった。みんな幸せになってと思ったこと。

 20分くらいの哲学対話を経験した感想を伝え合いました。
 聞いているのだけれど、自分の中で考えていた。
 聞いているうちに、1人ひとりがいとおしく感じてきて、もっと聞いていたくなった。
 思索的になる。他者と向き合いながら、自分に向き合っているのを感じた。
 暖かい空間になって心地よかった。
 「話さなくてもいい」という安心感がよかった。
 話が盛り上がる特効薬があるのかと思っていたが、こういう対話もあるんだ。もっと話していたいと思った。
 みんながやさしい顔になり、いい空間になったのを感じた。いろんな人といろんな話をしたいと思った。

 最後に梶谷さんから、参加者を信じること。参加者や子どもたちを信じて対話をまかせることが大切だと言われてました。
報告!コミュニケーションの力をのばす「哲学対話」ってなんだろう?を開催しました。 

 朽木のみんなと円卓会議を進める中でも、哲学対話を取り入れていって、互いの違いを認め合い、対等に話せる人間関係から地域のことを話していきたいと思いました。
 梶谷さん、参加したみなさん、ありがとうございました。

たかしま市民協働交流センター 坂下でした。


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Posted by たかしま市民協働交流センター at 20:06 │たかしま・未来・円卓会議報告